ACT:22 転落


静かな洞窟の中、2人の足音だけが響く。
中へ入ってから、どのくらい経つだろう?
穴は入り口付近よりはやや細くなってはいるものの、
相変らず2人が並んで歩いても十分余裕が有るほどに広いのだが
入り口から差し込む光はとうに見えなくなり
行く先に泉らしきものはまだ見えない。

ほの青い洞窟の中、耕太はだんだん不安になり始めていた。
ここまでずっと一本道だったが、何かの間違いで迷い、出られなくなるのではないか・・・
フロスへの道が崩れたように、洞窟内も崩れたりしないのだろうか・・・
すぐに帰るつもりでジーグにも黙って来てしまった・・・
きっと心配しているし、今頃さがしているかもしれない。
帰ったらまた、こっぴどく怒られるだろう。

それでもタウの手前、怖いとも帰りたいとも言い出せず
ただ不安から口数は減り、ただ黙々と歩き続ける。
永遠の愛を誓うなんて言って・・・ちょっとした試練だよなぁ・・・
ここで止めたり仲たがいしたりすると、なるほど永遠の愛は手に入らないわけだ
全く良く出来ている・・・。
入り口に積んであった木の枝の山を思い出す。
あんなに沢山の人がたどり着いているのだから、そう危ない道程では無いはずだ。
そう思って居た時に、前方に始めての分かれ道が現れた。
「右です。」
下調べは万全らしく、タウは迷うことなく道を示す。
しかし枝分かれした後の道は、格段に幅が狭くなり天上も低く
やや屈んで進まなくてはならなくなった。
当然、並んで歩く事も出来なくなり
タウが本当に後から付いて来ているのかさえ不安で
耕太は何度も振り返っては確認しながら進んだ。
タウの方はと言えば、特に不安そうな様子も無く、むしろ楽しげに足を運んでいる。
こう言う場面では、女の子の方が肝が据わっている。

「道は・・・本当にこれで合ってるの?その・・・どこかで間違えたりしたんじゃ・・・。」
壁面に生えていた苔も減り、辺りは暗く手に持つ松明の光の届く狭い範囲しか見えない。
ゆらゆらと歩みにより揺れる炎の照らし出す狭い道は
いつ何処から何が飛び出しても不思議は無いくらいに不気味だ
もし何かの間違いで松明が消えてしまったら・・・
自分の手も見えない闇になる。
間違いなど起きなくても帰り道だって有る、
この松明は一体どのくらいで燃え尽きる物なんだろう?

タウが下調べをしていたとしても、まさか一度来ているという訳では無いだろし
間違える可能性だって・・・
次から次へと怖い考えが浮かんで来るのを止める事が出来ずに
耕太はとうとう不安を口にした。
しかしタウはと言うと、何の不安も伺わせない声で自信たっぷりに答える。
「大丈夫、もう直ぐそこです。ほら、水音が聞こえませんか?」
耳を澄ますが、水音どころか何の音も聞こえない。
しかし、自信たっぷりのタウにそれ以上異議を唱える事も出来ず
耕太は黙って足を進める。

あれだけ自信たっぷりに言うんだから、間違いないのだろう
松明は・・・不安だけど、もし消えてしまっても道は一本
分かれ道まで戻れば、あの苔の光で真っ暗闇では無いし、遭難する事は無いハズだ。
でもこんな状況でタウは何で少しも不安じゃないんだろう・・・
まさか、以前にも誰かとここに来てたりしたんじゃ・・・。

頭に浮かんだ考えを振り払うように、耕太は軽く首を振る。
何考えてるんだ、オレ、そんなハズ無いじゃないか。
彼女が楽しげなのは、好きな相手と2人っきりでいるからだ!
そうか、そうだよな。テレストラートと言ったら、有名な精霊使い。
松明が消えても、怪物が出ても何とかしてくれると思って安心しているのが当然なんだ・・・

そうは言っても、実際は小さな炎1つ呼び出すことの出来ない耕太にとっては
何の慰めにもならないのも事実だ。
「ティティーさま、つきましたわ。」
自分の考えに捕らわれていた耕太は、嬉しげなタウの言葉に我に帰る。
いつの間にか2人は開けた空間に出ていた。

高い天井は見上げるほど。
不気味な形の大きな岩の転がる地面。
前方と右手には広い空間が広がり、
その先は闇に消え、何処まで続いているのか見当もつかない。
左手は断ち切ったように地面が落ち込んでおり、その下がどうなっているかなど
近づいて見るのも嫌だった。

松明を高く掲げて一通りざっと見回したが、泉らしき物などどこにも無い。
もしかして、左手の崖の下なのかと嫌な予感に慄きつつ
あまり端に寄らないようにしながら、暗闇を覗き込もうとした瞬間
「!!!」
後から強く背中を押され、耕太は闇の中に転がり落ちた。

「―――――いってぇ・・・・・。」
咄嗟に頭は庇ったものの、強かに肩を打ち耕太は苦痛の声を上げる

一体何が起こったのかが理解できずに、近くに落ちた松明の明かりで状況を確認する。
耕太が蹲っているのは幅3メートル程の細長い地面
その先は光さえ入らないほどの裂け目が口を開けていて、その幅は10メートルと言った所か・・・
深さはの方は知る由もない。
松明の光に照らし出される対岸は、こちらより高くて
その上がどうなっているのか、見ることが出来ない。
裂け目の反対方向は、高さ3メートル程の高さの切り立った岩壁で
どうやらその上から落ちたらしい事が分かる。
「ティティーさま、お怪我はありませんか?」
上からタウが声を掛ける。
「うん、大丈夫。ちょっと肩を打ったけど・・・」
心配させまいと返した耕太だったが、違和感に言葉を途切れさせる。
タウの声に心配そうな響きは微塵も無く
見下ろす顔には楽し気な笑みが浮かんでいた。
「・・・タウ・・・?」
「それは、良かったですわ。これからメインの出し物が有ると言うのに
 出演者にお怪我でもされたら、楽しみが半減してしまいますもの。」
言われている意味が判らず、耕太は状況を把握しようと必死に頭を働かせる。

一体何が起こっているんだ?

そう言えば、オレは足を滑らせたわけじゃない。確かに押されて落っこちた!
ここに居るのはオレとタウだけ
当然、背中を押したのは彼女と言うことに・・・?
でも、何で?そんな訳無い。だって・・・・・タウは・・・

状況から導き出される答えが受け入れらずに、思考停止に陥っている耕太に構わず
楽しげな声でタウは続ける。
「ティティーさまに是非会って頂きたい者が居りますの。
 他のものにはナイショにしたかったものですから、ここまで来て頂きましたのよ
 嘘をついてゴメンなさいね。
 でも、とっても素敵な人物ですの。きっとティティーさまもお気に召しますわ。」
「一体何を言って・・・」
「ほら、あそこ。やって参りましたわ。」
タウの言葉と同時に、背筋を冷たいものが走り
耕太はタウの指し示す方向に振り向いた。

闇の中から突如湧き出したかのように、
耕太から5メートル程離れた場所に1人の男が立っていた。

(2007.02.18)
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