Act.2 異世界

耕太はゆっくりと眼を開けた。
何だか薄暗くて、視界がはっきりしない。
ここ、何処だ?
教室にしちゃあ暗すぎる。まさか夕方まで寝てしまった…?なんて事はないだろうし…。
第一机に突っ伏している訳ではなく、ちゃんと横になっていた。
もしかして、保健室にでも運ばれたのか…それにしちゃあベッドが堅い。
ただの台としか思えない堅さだ。
耕太は何度か瞬きを繰り返した。
次第に周りの様子が焦点を結び始める。
誰かが覗き込んでいる。
「…ティティー」
「?」
何・・・誰?
何を言われたのか意味が判らず、耕太はもう何度か瞬きをすると
目を凝らして覗き込む人物を見た。
見覚えの有るその顔に、思わずガバッと上体を起こすと
マジマジと正面からその顔を見すえた

・・・・・嘘・・・・・

それはあの夢の黒馬の戦士だった。
その全身はおびただしい血で染め上げられ、何とも凄まじい姿だ。
だが、その顔には壮絶な出で立ちとは不釣合いな不安げな表情が浮かんでいる。

まだ夢の続きだ、目覚めて無い。
どうなってんだ?

何だか足に何か乗っているように重く感じて、耕太は視線を足の方へ向けた。
そこには一人の老人が覆いかぶさるように突っ伏していた。
何、このじーさん人の上で寝てんだ?重いし・・・。
老人を足の上からどかそうと、少し足を動かしてみた。
その動きで老人の体が傾き、今まで見えなかった老人の顔が眼に入った。
うつろな瞳は焦点を結んでおらず、口はだらしなく開かれている。
し、死んでる!?

「ひっ…うわぁ」
自分の足の上の物が、死体だった事に気づいた耕太は思わず後ずさり
狭い台の上から転げ落ちた。
「痛ってー・・・・・」
慌てて受身も取れず落っこち、強かに体を打ち思わず苦境をもらす。
何で、痛いんだ・・・?
夢の中なのに!

さっきは刺されても全然痛くなかったのに、
今は現実の痛みとしか思えない。
そういえば、床の感触とか服の感触とか、妙にリアルだ
もしかして、まさか、現実?でも、そんな…バカな…
耕太はパニックをおこす寸前だった。
「大丈夫か?」
台を回り込んで来た戦士が、焦ったように声をかけ
助け起こそうと駆け寄り手を伸ばす
腕を掴むそのリアルな感触に、耕太の理性が吹っ飛んだ
「ぅわああああああああぁぁぁぁぁぁ・・・・」
目茶苦茶に腕を振り回し、立ち上がると叫びながら駆け出そうとする。
「待て、ティティー落ち着け!ティティー!!」
戦士は素早く耕太の体を後ろから抱え込むとしっかりと押さえ込んだ。
「離せー!!嫌だ嫌だ嫌だ、この人さらい離せ!!!」
すっかりパニックに陥った耕太は抑えられた上半身をひねり
足を滅茶苦茶バタつかせる。
「ティティー、落ち着け!テレストラート!」
押さえつける腕に力がこもる。
「痛っっってぇー!!!」
耕太の叫びに、戦士が怯んだように腕をゆるめた
その隙に、腕から滑りぬけると、眼に入った扉へ向かおうとする
だが、すばやく扉の前に細身の男が2人扉を塞ぐように立ちはだかる
2人が伸ばした手を避け、他に出口はないかと扉と反対方向に駆け出し
何かにつまずいて、思い切り転んだ。
自分がつまずいた物に眼をやる
隠す様に大きな布で覆われていたそれは、男の死体だった。
耕太がつまずいた拍子に布が外れ半分ぐらい露出した体には
首が無かった。
「うわああああああああああ・・・・・」
耕太は這うように壁際まで行くと、自分の体を抱え込んでうずくまり
がたがたと震えはじめた。
「覚めろ、覚めろ、覚めろよ!覚めろ覚めろ……」
何が何だか解らない、恐くて恐くて涙がこぼれ落ちた。

「ティティー」
戦士がそっと、声をかけながらゆっくりと近づいてくる。
壁際に張り付き、それでもさらに逃げようとする耕太を見て
少し離れた所にしゃがみこみ
なだめるように声をかけた。
「ティティー、落ち着け。大丈夫だ。俺が解るか?」
「・・・・・ない」
「テレストラートこっちを見ろ。俺だ、ジーグだ。」
「あんた・・・は、知ってる」
「そうだ、落ち着け。俺だ、ティティー」
「・・・はぁ?あんた、何言ってんだよ・・・知らない!あんたの名前なんか!あんたが誰かも!ティティーって誰だよ、俺は違う!」
「お前は・・・、テレストラートだ」
「違う!」
戦士の顔から優しげな表情が一瞬で消える。
「お前は・・・誰だ。」
有無を言わせぬ、圧迫感の有る問いに、思わず素直に答えが口をつく。
「耕太。‥平山・耕太!」
ギリっと歯を噛み締める音が響き、吹き付けてくる無言の怒気に身がすくむ。
「ゼグス、カナト!どういうことだ、これはテレストラートじゃない!」
名を呼ばれた戸口の2人は青ざめ、悲鳴のような声で叫び始めた。
「そんなはずは・・・確かにテレストラート様の・・・」
「オーク老の術が違えるはずは・・・」
「テレストラートではない。別人だ。」
まるで死刑判決のように言い放つと、そのまま荒い足音を残し出て行った。
飛びのくように道を明けた2人のうちの一人が、
すぐにジーグの名を呼びながら後を追う。
残された一人は、ただ呆然と
壁際で震える耕太を眺めていた。

一言でもご感想頂けると嬉しいです!! →     WEB拍手 or メールフォーム 
前へ。  作品目次へ。  次へ。